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福井地方裁判所 平成5年(ワ)100号 判決

主文

一  被告は、原告に対し、金一三二九万九四五八円及びこれに対する平成三年一二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、それぞれを各自の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

理由

第一  請求

被告は、原告に対し、金二〇〇二万三七六八円及びこれに対する平成三年一二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、一般国道においてスリップによる自損事故を起こした原告が、スリップの原因である路面の凍結は被告の設置した融雪装置の放水によるものであり、その管理の瑕疵から右事故が発生したと主張し、国家賠償法二条に基づき損害賠償の請求をした事案である。

二  前提となる事実(証拠を掲げた部分以外は、当事者間に争いがない。)

1  事故(以下「本件事故」という。)の発生

日時 平成三年一二月二〇日午後一一時四〇分ころ

場所 福井県足羽郡美山町大宮三〇号一番地先の国道一五八号線上(以下「本件道路」という。)

態様 本件道路上を福井市方面から大野市方面に向かう原告運転の普通乗用自動車(以下「原告車」という。)が、スリップして対向車線上にはみ出し、道路脇の立木に衝突し、さらに暴走して道路脇のポンプ小屋に衝突して停車した。

結果 原告は、頭部外傷、右膝関節脱臼、両下肢打撲等の傷害を負い、次の期間加療を要した。

入院 嶋田病院に同月二一日から平成四年四月一一日までの一一三日間、大橋整形外科病院に同日から同年六月二五日までの七五日間(ただし、初日は不算入)。

通院 大橋整形外科病院に同年七月七日から平成五年三月四日までの間に実治療日数三五日間。

2  本件道路には、被告所有の放水式融雪装置(以下「本件融雪装置」という。)が設置してあり、被告の土木部福井土木事務所が管理していたところ、吉水建機株式会社との間において、本件融雪装置の点検・調整等を目的とした雪寒道路整備工事請負契約を締結しており、同社は同契約に基づき、平成三年一二月二〇日午前九時三〇分ころから午後二時三〇分ころまでの間(ただし、午前一一時から正午までと午後一時から二時までの間は停電のため除く。)、本件融雪装置の放水ノズル点検のために放水を実施した。

なお、本件道路の管理者は福井県知事であるが、被告は当該管理費用を負担している。

三  争点

本件の主な争点は、次のとおりである。

1  路面凍結の有無と本件事故との因果関係

2  路面凍結と道路の管理の瑕疵の有無

3  過失相殺の程度

4  原告の損害額

第三  争点に対する判断

一  争点1(路面凍結の有無と本件事故との因果関係)について

証拠(該当箇所にそれぞれ掲記する)によると、次の事実が認められる。

1  本件道路は、福井市と奥越地方の中心地である大野市とを結ぶ幹線道路であって、冬期間は、通常、かなりの降雪がみられるところであり、本件事故現場付近は谷川沿いの山間部であって、福井市と大野市の中間よりも大野市寄りの地点であり、福井市方面から進行した場合は、ゆるやかな左カーブを抜けた後の直線部分である(公知の事実)。

2  原告は、本件事故当時、大野市の実家へ帰る途中であり、事故現場手前の左カーブの入口で減速して進行したところ、カーブがほとんど終わり直線が見えたころ、突然車が滑りだし、何とかしようとハンドルを左右に切った憶えがあるが、その後は何がどうなったかわからないと供述している。

本件事故の態様をみると、原告車は、一〇〇m近く凍結した路面を滑走しながら、本件道路外へ逸脱し、路肩の木をなぎ倒し、融雪ポンプ場の金網フェンスを破り、コンクリート製電柱を折り、右ポンプ場のドアを突き破り、右ポンプ場壁面に車体の上面を向ける状態で横転し、大破して停車している。

3  本件融雪装置は、別紙図面の「一一七・八八」の地点から大野市方面に向けて設置されており、同地点から「一一八・五」の地点付近までは上り車線(福井市方面に向かう車線)の中央付近に、同地点付近から大野市方面については、本件道路の中央付近に埋設されているが、放水すれば道路全面に散水され、雨が降ったような感じになるくらい路面が濡れるようになっている。

4  本件事故当日、福井県地方の天候は、午前六時から午後六時までが曇後晴、午後六時から翌朝六時までは快晴であって、平均風速は秒速二・一m、本件事故現場付近は積雪もなく、福井地方気象台が本件事故当日午後六時発表の予想最低気温は福井市で二度シー、大野市で〇度シーであったところ、実際の福井市の本件事故当日の最低気温は午後一二時に〇・八度シーを、翌二一日の最低気温は午前六時四分に零下〇・七度シーをそれぞれ記録しており、また、大野市の本件事故当日の最低気温は零下一・五度シーを、翌二一日の最低気温は零下二・五度シーをそれぞれ記録している。

本件事故後の翌二一日午前零時五分ころ、後記のとおり本件事故で出動中の救急車に別の普通乗用車が追突する事故が発生したが、その事故状況の報告書では、右事故発生時の天気は晴、気温は零下一度シーとなっている。

なお、本件事故当日の福井県地方の日の入の時刻は、午後四時四三分であった。

5  本件事故後の翌二一日午前零時五分ころ、本件事故現場付近において、本件事故で出動中の救急車に別の普通乗用車が追突する事故が発生したが、運転者は、本件事故現場付近のカーブの手前では時速七〇kmの速度で走行し、カーブ部分で減速し、カーブを曲り切ったとき、前方に赤色灯が回転しているのが見えたので、減速しようとブレーキをかけたところスリップし、停車中の救急車に追突した、現場の路面は完全に凍っていて歩くと滑って危ないくらいであった、後ろから来たタクシーがブレーキを踏んで一回転した等事故状況について説明しており、消防士は事故原因としては、本件融雪装置の散水点検によって濡れた路面が放射冷却で凍結したことと追突車両のスピードの出しすぎ(時速八〇km程度)と思われると報告している。その際に撮影された写真(甲三の添付写真1)には、路面に追突車両のスリップした状態が印象されているが、乙四の三枚目の写真には右スリップ痕に相当するような跡が見られず、甲三の添付写真1に撮影されている追突車両のスリップ痕は路面の凍結によってできたものと考えられる。

6  本件事故後、現場で交通整理をしていた巡査は、原告代理人に対し電話で、現場に至るまでの道路は白かったのに対して、現場は一面黒かったのを憶えていると答えている。

また、同日午前零時三〇分ころ、福井警察署の当直から福井土木事務所の補修班専門員街道春仁に対し、本件事故現場付近に融雪剤を散布するよう要請があったことから、街道は融雪剤散布を委託している株式会社谷口土木に対し、融雪剤散布を指示したところ、谷口土木は、別紙図面の「一一六・八九」の地点から「一一七・八八」の地点までは上り車線に、同地点から同図面の「至大野」と記載されたところから約六〇m大野市寄りまでは道路全面に合計一四〇kgから一七五kgの融雪剤を散布した。融雪剤を散布した当時、少なくとも同図面の「一一七・八八」の地点から「一一八・〇」の地点くらいまでは道路全面が黒くなっていた。

以上の事実が認められ、右認定に反する証人街道春仁及び同谷口幸男の各証言は措信できないる。

右認定事実によれば、本件融雪装置を約三時間余り放水したため道路全面が降雨時のように湿潤したが、日没までに二時間余りしかなく乾かなかったこと、本件事故当夜は快晴でも風も強くなかったことから放射冷却現象が起きやすい気象条件にあり、本件事故現場付近の気温は零下一度シーくらいになったこと、そのため本件事故当時、本件事故現場付近の路面は全面にわたって通行車両がスリップを起こしかねないほどに凍結していたこと、本件事故は原告車のタイヤが凍結した路面でスリップしたため発生したということができる。

被告は、本件道路の路面の凍結の有無及び原因について、本件融雪装置による放水は、午後二時三〇分に終了しているのであるから、その放水した水が凍結したとは考えられないし、仮にそうであったとしても、凍結の状態は霜が降りた程度の軽微なものにすぎなかった旨主張する。

しかしながら、前記認定によれば、本件事故当日は、降雨・降雪はなく、積雪もなかったのであるから、本件事故現場付近の路面が凍結する原因としては、本件融雪装置による放水以外には考えられないというべきであるし、本件事故やその後の追突事故の際の状況についての前記認定事実によれば、凍結の状況が被告の主張する程度のものであったとはいえない。

また、本件事故は、原告車のスリップが原因であることは当事者間に争いがないところ、被告は、時速七〇ないし八〇kmの高速度で走行する原告車が、カーブにおいて湿潤した対向車線にはみ出し、さらにブレーキをかけたことがスリップの原因であるとするが、対向車線がスリップを起こすほど湿潤していたかは疑問である上、原告車が対向車線にはみ出して走行していたとする証拠もなく、前記認定のように本件道路のカーブは緩やかであるから、通常であれば対向車線にはみ出して走行することはないものと考えられること、また、原告車がカーブにおいてブレーキをかけるのであれば、カーブの入口においてブレーキをかけるはずであり、被告主張のようにカーブの出口においてブレーキをかけることは通常考えられず、原告自身もカーブの入口で減速し、カーブの出口付近で車体が真っ直ぐになってからスリップした旨供述していることからすれば、被告の右主張は採用することができず、前記認定のとおり、路面凍結以外の理由では原告車のスリップを説明することは困難である。

二  争点2(路面凍結と道路の管理の瑕疵の有無)について

国道ないしその附帯施設が国家賠償法二条一項にいう公の営造物であることは多言を要しないところ、右国道ないしその附帯施設の構造は、当該国道の存する地域の地形、気象及び交通等の状況に照らして通常の車両等の走行に安全なものであることを要し、また、国道管理者は、当該国道の構造ないし交通等の状況に適合した危険防止の措置をなし、国道を常時良好な状態で保持し、安全かつ円滑な交通を確保すべき義務があり、通常、当該国道が予定された構造を備えず安全性を欠いている場合及び危険防止の措置を講じなかった場合には、国道の設置・管理に瑕疵があるというべきである。

これを本件についてみるに、前記認定のように、本件事故現場付近の路面は全面にわたってかなりの程度凍結しており、当該凍結は本件融雪装置の放水に起因するものであるところ、右放水は被告からの委託業者が実施したものであるから、道路管理者としても容易にその実施時期・方法等を把握できるものであり、気象条件等についても通知されるシステムになっており、右通知がなかったとしても一般の気象情報を利用すれば、容易に知りうるものであるから、本件道路の管理者としては、右放水による路面凍結を防止する義務があり、かつ、それを容易に防止できるにもかかわらず、本件においては、なるべく雨天ないし曇天時に放水点検するように指示していたにすぎず、委託業者が何時、どのように放水点検するのかということはまったく把握していない上、放水による凍結を防止するための措置もまったく講じていなかったことが認められ、気象状況等に応じ、常に道路を可能な限り通行に適した状態にしておくべき国道の維持管理に明らかな瑕疵があったものというべきである。

証人街道春仁の証言によれば、被告においては、冬季中、降雪や道路の凍結が予想されるような気象条件のときには、気象台から県庁消防防災課に連絡が入り、そこから県庁道路維持課及び各土木事務所にファクシミリで予想降雪量及び予想最低気温が通知され、各土木事務所では、道路維持課長が融雪剤散布などの作業のため職員を待機させるかどうか判断するという体制になっていることが認められるところ、前記認定によれば、本件事故当時の季節、天候・予想最低気温等の気象条件などのもとにおいて、本件融雪装置による放水を実施した場合には、本件事故現場付近の路面が凍結することは十分に予想できたと認められ、気象条件や本件融雪装置による放水についての情報は事前に入手することが可能なものであるから、福井土木事務所においては、本件事故当日、本件事故現場付近の路面が凍結することは十分に予見しえたというべきである。証人街道春仁の証言によれば、吉水建機から福井土木事務所に対して、本件事故当日に本件融雪装置の放水ノズル点検のための放水を実施することの連絡がなかったこと、及び本件事故前後一週間近く県庁消防防災課から予想最低気温の通知がなかったことが認められるが、これらの事情はいずれも道路管理者側の管理が不十分であったということでしかなく、これらの事情の存在によって予見可能性が否定されることにはならない。

次に、被告は、道路が有すべき安全性は、これを利用する者の常識的秩序ある利用方法を期待した相対的安全性の具備をもって足りるのであって、道路の設置又は管理に瑕疵があったかどうかは、通常の運転技術を身につけた者の通常予測される交通方法による車両の通行によって交通事故が発生する危険性があったか否かによって判断されるべきであるとし、制限時速四〇kmの本件道路を時速約七〇から八〇kmで走行していた原告車については、通常予測される交通方法であるとはいい難く、通常予測される交通方法による車両の通行によって交通事故が発生する危険性がない路面凍結については、道路の設置又は管理に瑕疵があったとはいえない旨主張する。

もとより、道路といえども、所詮、社会生活に欠かせない施設の一つにすぎないのであるから、他の生活必需施設との関係やこれを設置し管理する主体の人的、物的及び財政的制約を考慮すれば、これを利用する者の常識的秩序ある利用方法を期待した相対的安全性の具備をもって足りるものと解すべきであるが、道路の設置又は管理に瑕疵があったかどうかは、当該道路の場所的環境、利用状況等諸般の事情を総合考慮して判断すべきところ、本件事故現場付近の本件道路は制限時速四〇kmであるが(当事者間に争いがない。)道路において制限時速をかなりの程度上回る速度で走行する車両が多数存在することは一般的に知られているところであり、前記認定によれば本件道路は郊外の比較的見通しのよい幹線道路であるから、右のような車両が多数通行することは、制限時速の存在とは別に、道路管理者としては当然考慮して道路の設置又は管理を行うべき必要があるのであって、仮に原告車の走行速度が被告主張のとおりであったとしても、それを過失相殺の問題として考慮するかどうかは別として、本件道路での通常予測される交通方法を逸脱した異常なものとまで断ずることはできないというべきである。

三  争点3(過失相殺の程度)について

前記のとおり本件事故現場付近は制限時速四〇kmである。

原告は、本件事故現場に至るまでは時速六〇kmを少し超える速度で走行していたが、手前の左カーブに入るときに減速したから、スリップしたときは時速五〇km以下の速度になっていた旨供述するが、本件事故の翌日に入院先の嶋田病院で、保険会社の調査員に対し、本件事故現場付近のカーブの手前では時速七〇ないし八〇kmの速度で走行していた旨を供述しているし、前記のとおり本件事故後に現場で発生した追突事故の運転者もカーブに入るまでは時速七〇kmの速度を出していたと供述しており、本件事故が起きた時間ころに本件事故現場手前の左カーブまでの道路を時速七〇kmの速度で通行するような行為は特別無謀な運転者に限られるとも言い難いこと、これに、前記事故状況、すなわち、一〇〇m近く凍結した路面を滑走しながら、本件道路外へ逸脱し、路肩の木をなぎ倒し、融雪ポンプ場の金網フェンスを破り、コンクリート製電柱を折り、右ポンプ場のドアを突き破り、右ポンプ場壁面に車体の上面を向ける状態で横転し、大破して停車したという事故の態様を総合すると、原告は時速七〇kmくらいの速度で事故現場手前の左カーブに至り、減速したがカーブの出口付近で原告の言う時速五〇kmにまでは速度が落ちていなかったと認められる。そして、右制限速度違反と右事故態様からうかがわれるハンドル操作など適切な運転操作をしなかったことも、本件事故の一因と考えられ、原告にも三割の過失があり、損害の算定に当たってこれを考慮すべきである。

なお、本件事故当時、原告がシートベルトをしていなかったこと、スノータイヤを装着していなかったことは当事者間に争いがないところ、シートベルトをしていなかったことによって原告の負傷が拡大したり重大なものとなったとは言えないし、本件事故当日は天候もよく、積雪も認められなかったのであるから、スノータイヤを装着しなかった点に過失があるということはできない。

四  争点4(損害額)について

1  治療費 認容額二四万四八五〇円

(請求額とおり)

嶋田病院分 一五万七一八〇円

大橋整形外科病院分 八万七六七〇円

2  入院雑費 認容額二二万五六〇〇円

(請求額とおり)

入院雑費は、一日当たり一二〇〇円と認めるのが相当であり、入院期間が一八八日間であることは当事者間に争いがないから、右金額となる。

3  通院交通費 認容額三万五〇〇〇円

(請求額とおり)

原告本人尋問の結果によれば、原告は、退院後、住所地である大野市から福井市の大橋整形外科病院に自家用車で通院したことが認められ、その費用は通院一回当たり一〇〇〇円と認めるのが相当であり、通院期間が三五日間であることは当事者間に争いがないから、右金額となる。

4  休業損害 認容額二二五万円(請求額とおり)

甲二〇によれば、原告は本件事故当時北陸ジャスコ株式会社に勤務しており、平成三年度の給与所得は二四一万一八〇三円で、月額二〇万円を下らなかったことが認められる。

そして、前記争いのない事実等および証拠(甲六、七、原告)によると、原告は、事故後、当時の勤務先から給与を得ておらず、平成四年六月二五日までの六か月入院していたこと、退院後症状固定した平成五年三月四日までの通院期間八か月強の内実治療日数は三五日間であるが、退院後半年くらいはリハビリテーションに通っていたというのであるから、事故後入通院合せて一二月位は休業を余儀なくされたと認められ、原告の請求額である二二五万円を下らない損害を被ったと認められる。

5  後遺障害による逸失利益

請求額一四五九万七七九一円

認容額 七六三万四四九〇円

原告は、後遺障害等級第一二級七号と第一二級一三号(著しい醜状)の後遺症があるので第一一級となり、労働能力喪失率は二〇%になるとし、平成四年度賃金センサス新高卒男子の平均年収三二二万八一〇〇円で労働能力喪失期間四三年として、逸失利益を算定すると一四五九万七七九一円となると主張した。

甲七によれば、原告は右膝関節の機能に障害を残しており、これが後遺障害等級一二級七号(労働能力喪失率一四%)に該当することについては当事者間に争いがない。

なお、甲一六の1、2によれば、原告の左額部に線状痕が認められるが、頭髪にかなりの部分が隠れ、色彩的にもそれほど人目につくものとは認められないから、「男子の外ぼうに醜状を残すもの」として後遺障害等級第一四級一〇号に該当するものと認めるのが相当であるが、右後遺障害は、原告の労働能力には影響を及ぼさないと解される。

前記認定事実によれば、原告は本件事故当時二三歳(昭和四三年七月一一日生)の健康な男子であり、本件事故による後遺障害は、平成五年三月四日に症状が固定していることが認められるから、本件事故に遇わなければ、右症状固定日から少なくとも四三年間稼働して毎年二四一万一八〇三円の収入を得られたはずであるのに、右後遺障害により、その一四%を失うことになったと認めるのが相当である。

そこで、右逸失利益の現価を新ホフマン方式(二二・六一〇五)により年五分による中間利息を控除して算出すると、七六三万四四九〇円となる。

6  慰謝料 請求額六三八万円

認容額四八八万円

原告は、入通院分二四八万円、後遺症分三九〇万円が相当であると主張するが、入通院分二四八万円、後遺症分二四〇万円が相当である。

7  物損 認容額二〇一万五〇〇〇円(請求額とおり)

証拠(甲一五、一八の1、2、乙4、原告)によれば、本件事故により、原告車であるコロナマーク[2]二・五グランテ(ハードトップ、新車)が廃車となったが、本件事故当時の時価は二〇一万五〇〇〇円であったことが認められる。

8  過失相殺

前記三のとおり原告にも過失があり、前記1ないし7の損害の合計額一七二八万四九四〇円について三割を減額するのが相当である。

したがって、被告が原告に対して賠償すべき額は一二〇九万九四五八円となる。

なお、被告は、原告の無謀運転により消雪ピットを損壊され、その修理費一四一万〇七三九円相当の損害を被ったので、対当額をもって相殺する旨主張するが、当事者双方の債権がともに不法行為による債権である場合には相殺は許されないから、被告の右主張は理由がない。

9  弁護士費用 認容額一二〇万円

弁論の全趣旨によると、原告は、本件訴訟の提起及び追行を原告訴訟代理人弁護士に委任し、相当の報酬を支払うことを約したことを認めることができるところ、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は一二〇万円と認めるのが相当である。

第四  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、金一三二九万九四五八円とこれに対する不法行為の日である平成三年一二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判長裁判官 野田武明 裁判官 宮武 康)

裁判官 井上一成は転補につき署名押印することができない。

(裁判長裁判官 野田武明)

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